POINT OF VIEW ポイントオブビュー

翔んで埼玉とSNS

足立 早恵子

中小企業診断士

昨年公開された「翔んで埼玉」という映画のことは多くの人が知っているだろう。しかし、その原作が30年近く前の作品ですでに絶版になっていたこと、そして時の流れの中で埋もれていたこの作品が脚光を浴びるに至ったきっかけがSNSでの地道な情報発信だったことを知る人はほとんどないかもしれない。この例はSNSでのPR活動に苦慮する企業にとって大きなヒントになるものである。
始まりは14年。原作者の魔夜峰央氏は人気漫画「パタリロ!」で一世を風靡した著名漫画家だが、近年はヒットに恵まれず苦境にあったという。そんな状況を打開し、より多くの人に魔夜作品を読んでもらいたいとツイッターでのPR活動を始めたのが、魔夜氏の長女であり、父のアシスタントを務める傍ら、現在は自身も漫画家として活躍している山田マリエさんだ。


それまでほとんどSNSを使っていなかったという山田さんだが、その発信内容はツイッターという媒体とそのユーザ層の特性を踏まえた非常に戦略的なものとなった。まず魔夜作品をよく知る人たちに向けて子ども時代にプライベートで父に描いてもらったイラストを掲載し反応を探ってみたところ、ファンからの反響が思った以上に寄せられたという。ちなみに魔夜氏は子どもたちが幼い頃、家族の様子を描いたエッセー漫画を発表していたことから旧知のファンは山田さんの存在をすでに知っており、親しみを感じやすかったことも比較的早い時期に多く人に注目された要因だ。そして、こまめに返信コメントを返すなどして既存ファンを中心にある程度フォロワー数を安定させた山田さんは、次の段階の施策として埋もれていた過去作を購買につなげようと紹介することにした。そして、数ある作品の中から選んだのが「翔んで埼玉」だった。理由はテレビ番組などで県民性の特徴や地方による違いなどを紹介する番組が人気を集めており読者に受ける可能性が高いと考えたからだという。山田さんの読みは当たり、作品はネット上で話題になった。


しかし、ここで同作がすでに絶版になっており、宣伝しても新規購買につながらないことに気づいた山田さんは、絶版になった書籍をネット上で公開しているサイトへのアプローチを考え、サイト名を挙げて「アプローチをしてみるべきか」とツイッターに投稿した。その投稿が偶然にもネット上で絶版した漫画作品を掲載している「絶版マンガ図書館」の運営者である赤松健氏の目に留まった。そして、その山田さんと赤松氏のやりとりを見た宝島社の担当者が作品に注目し、あれよあれよと言う間に書籍での復刊が決まったというのだ。


SNSでの情報発信というと、未知の顧客との出会いを求めてしまう。しかし、山田さんのように、まずはすでに接点のある人たちに向けて喜んでもらえる情報を発信し、つながりを強めることがSNS広報の鉄則だ。そして、反応を見ながら少しずつPRしたい話題に移行していく。そうすれば、個々のフォロワーが自主的に話題を広めてくれ、それがやがて大きな渦へとつながっていくのである。

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